より子の言の葉。

30代半ば独身女の読書ブログです。

読むだけで神経がすり減って胃が痛くなる。中間管理職必読の小説「騙し絵の牙」

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2018年本屋大賞第6位。

大泉洋をイメージに書かれたという本作。

作中のセリフは大泉洋で脳内再生出来るほど見事までに表現されていました。 

飽きれるほどに大泉洋を前面に出している本書ですが、ちゃんとした社会派小説であり、お仕事小説でもありました。

一般職の私ですが、中間管理職が読むと胃痛間違いなしの痺れる作品でした。 

騙し絵の牙

あらすじ

大手出版社で雑誌編集長を務める速水。

誰もが彼の言動に惹かれてしまう魅力的な男だ。

ある夜、上司から廃刊を匂わされたことをきっかけに、彼の異常なほどの“執念”が浮かび上がってきて…。

斜陽の一途を辿る出版界で牙を剥いた男が、業界全体にメスを入れる!

小説を愛する編集者速水。人たらしの速水。

小粋な会話で進む本書からはとぼけているようで頭の回転が速い、仕事の出来る男速水の姿が印象に残ります。

上司からの無茶ぶり、家庭内不協和音、編集長を務める雑誌の廃刊の危機。

そして業界全体を渦巻く出版不況。

次から次へと問題が起き、社内政治に奮闘する速水の姿に共感し、神経がすり減ってすり減って仕方ありませんでした。

漫才のような小粋な会話が堪らない。

「沖縄ってあれでしょ?セーター売ってないんでしょう?」

「いや、売ってるんじゃないですかねぇ……」

「売っててもノースリーブでしょうよ」

「いえ、普通に売ってますねぇ」

「そうやってすぐ調べるだろ?もっと転がしてからの答え合わせだよ。これだから現代っ子は困るよ」

「すみません。でも。僕三十六なんですよね」

「まぁまぁのおさんじゃねぇか」

(p18 会話のみ引用)

 ミーティング前の速水と部下たちの会話です。

「場を温める」という表現を使っているけれど、これ漫才だろ。って思うシーンがめちゃくちゃ出てきます。

愉快なおっさんは、もてるんだよなぁ。

何が嘘で、何が本当かわからないけどポンポンと会話が弾みます。

次は同期との会話です。

仲が良いのか悪いのか。阿吽の呼吸にゾクゾクします。

「で、トリニティはどうなんだ?」

「もう、タイタニックだよ」

「メガヒットか」

「映画の方じゃねぇよ。沈没しそうってことだよ。アップターンはどうなんだ?」

「うちも似たようなもんだ。ろくな編集者がいない」

「相変わらず血も涙もないらしいな。知ってると思うけど、おまえ、かなり部下に嫌われてるぞ」

「おまえはだせぇほど好かれてるな」

「だせぇが余計なんだよ」

(p122 会話のみ引用)

リアルでも活字でも小粋な会話に萌えるんですよ。

この萌えは何かというと、多分頭の速さだと思う。

何でそんなに面白い言葉が次から次へと出てくるのか。

好きです。

好きで好きで堪らないです。 

もし、弊社にいたら私このおっさんに惚れちゃうんだろうなぁ。

男にはいくつもの顔がある。

上司といる時。

部下といる時。

家族といる時。

取引先といる時。

一人の時。

私の父は良き家庭人だったと思うけど、会社での顔は知らない。

逆に、上司の家庭の顔を私は知らない。

営業さんが接待しているときの、おべんちゃらも私は知らない。

男の人は、いくつもの顔があってそれを巧みに使い分けているんだなってことを、覗き見した気持ちになります。

働くって大変だね。

表紙の大泉の背中をみて思うのは、モーレツ時代の父の背中と、ゆとり世代の後輩の娘が見る背中は違うのだと思う。

時折見せる速水の、登場人物の哀愁に私はそっと抱きしめたくなるのです。 

出版不況に鞭を打て。

小説はフィクションだけど、この小説の内容はノンフィクションです。

出版不況の泥舟を嫌になるほど見せつけられる。

「本のエンドロール」もそうだけど、ついつい出版不況が題材になっていると応援したくなるのです。

私に出来ること。より一冊でも多くの人へ。

読んで欲しいと思うのです。 

騙し絵の牙

騙し絵の牙

  • 作者:塩田 武士
  • 出版社:KADOKAWA
  • 発売日: 2017-08-31