より子の言の葉。

30代半ば独身女の読書ブログです。

【読書感想】「平成くん、さようなら」古市憲寿【第160回芥川賞候補作】

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「大人のおもちゃ」のことを、今は「セックストイ」って呼ぶんだなー。

と、考えている間に物語の中に引きずり込まれた。

冒頭エロは、ちょっとだけずるいと思う。

どうも、より子です。

いよいよ明日、第160回直木賞・芥川賞の選考会です。

読書ブロガーとして候補作を1冊位は読んでおこうと手に取った本書です。

彼から安楽死を考えていると打ち明けられたのは、私がアマゾンで女性用バイブレーターのカスタマーレビューを読んでいる時だった。

(p3、冒頭より)

なかなかパンチの聞いた冒頭で、思わず購入してしまったのは私だけじゃないはずです。

結論を先に言おう。1,512円の価値はある。

芥川賞取っても取らなくても読んでおいて損はない。

「平成くん、さようなら」古市憲寿

平成くん、さようなら

平成くん、さようなら

 

 あらすじ

平成を象徴する人物としてメディアに取り上げられ、現代的な生活を送る「平成くん」は合理的でクール、性的な接触を好まない。だがある日突然、平成の終わりと共に安楽死をしたいと恋人の愛に告げる。愛はそれを受け入れられないまま、二人は日常の営みを通して、いまの時代に生きていること、死ぬことの意味を問い直していく。なぜ平成くんは死にたいと思ったのか。そして、時代の終わりと共に、平成くんが出した答えとは―。

古市憲寿の処女作。期待値低めからの高低差。

古市憲寿が有名になった作品「絶望の国の幸福な若者たち」は、絶望的につまらなかった。未だにあの本が何故あんなに話題になったのかがわからない。

それに加えて古市憲寿は、鼻持ちならないやつである。

だから、私は本書が芥川賞候補作品と言われても、大したことは無いだろうと思っていた。

本を売りたいがために、マスコミが持ち上げたんだなと。

それに乗っかるのは、どうにも面白くない。

それでも読んでみようと思ったのは、題材が「安楽死」だったからである。

冒頭にしてやられた感じもあるが、私の中でホットなワード「安楽死」

はてさて、いけすかない古市の処女作はどんなものだと読んでみれば、読み終わりたくないほどに面白かったのである。

悔しい。

もうちょっと、読んでる途中真ん中くらいで悔しくて悔しくて呟いたよね。

気分は凌辱された乙女だよ!

だが本書の著者が古市だと知らないで読んだら、面白さは半減していたかもしれない。

主人公の平成(ひとなり)くんは、平成生まれの平成育ち。

平成の寵児と言われ、文化人としてマスコミに引っ張りだこ。

高層マンションで彼女とセレブリティな同棲中。

私小説かと思うくらいに古市じゃん。

この主人公のモデルはどう考えたって古市じゃん。

脳内再生超余裕な主人公。

嫌いなのに・・・嫌いなはずだったのに・・・読み終わったらもう逆転だよね。

なんだよ、ちょっと可愛いじゃん。

平成くん、めっちゃ好きってなる程度には単純な女なのである。

まったくもうと、これ以上ぶつくさ言っても仕方ないので、私がこんなにもはまった理由を考えてみる。

最先端の固有名詞から成る文章の魅力

「UBER」「TikTok」「人狼」「ねぇ、グーグル」

時代の最先端を生きる平成くんと彼女の生活には、他の小説ではめったに見かけない固有名詞が盛りだくさんである。

尚且つその名詞を一切説明しないから、ちょっとぐぐったよね。

「UBER」って何やねん!

当たり前のようにスマートスピーカーを使いこなすなよ!

なんてリアルタイムに現代を生きるほぼ平成育ちの私でも、ついていけないくらいの最先端。

これには異を唱える人もいると思うけど、正直私はかっこいいと思ったよ。

都会の生活、かっこいいなって思ったよ。

9時17時一般職のワープアお局は、生まれ変わらないとあんなにオシャレな生活出来ないと思う。

背伸びして雪散るすすきののスタバで読んだけど、どうしても都会に思いをはせてしまうのである。

そして何よりも論理的な平成くんのスマートさが際立って、良くできているなと感心するばかり。

フィクションだけど超リアル

舞台は平成の終わりを迎える日本。

まさに2019年の今である。

だけどその日本では当たり前のように、「安楽死」が認められている。

「安楽死」のために簡易化されている法整備、アトラクションのような葬儀など完全にフィクションなのに、リアリティが溢れている。

物語は主人公と彼女だけで、ほぼ進んでいく。

固有名詞の効果と共に、物語に出てくるTV番組や本のタイトルが現実のものである。

「とくダネ」とか「君たちはどう生きるか」とか、こんなに言っちゃって大丈夫なのと心配になる。

10年後にこの本を読んだ人は、何のことかわからないんじゃなかろうか。

あぁだからこそ、「平成のうちに読め」ってことなのかもしれない。

平成に生まれ、次の元号には消えゆくサービスや言葉たちが、嫌味なくらいに登場してこれが平成だと象徴しているようである。

私は10年後、このリアルを懐かしむのかもしれない。

愛とエロと可愛さと

粘膜接触を嫌がる平成くんと彼女愛ちゃんのスキンシップは変わっている。

その二人のやりとりは、ちょっともどかしくじれったい。

人のセックスを笑うなじゃないけれど、愛ちゃんに共感して読んでしまった私は、徐々に変化していく平成くんに、ニヤニヤといやらしい笑みを隠せない。

純文学のフェティシズムは大概変態的で、それは本書にも当てはまる。

そういえばアダム徳永とかさらっと出てきて、想像力が掻き立てられたなぁ。

冷酷で機械のような平成くんの変化は、私的に完全なるツンデレで超萌える。

そして安楽死について議論を重ねる二人の会話は、論理と矛盾に満ちていて、人間が人間であるかのように微笑ましく可愛いのである。

クールな平成くんが子供みたいに笑うんだ。

きちんと終わる。余韻に浸る。

終わりよければすべて良しではないけれど、途中からどう決着をつけるのか不安で不安でしょうがなかった。

推理小説でも勧善懲悪でもない場合、終わり方で台無しになる場合がある。

読後感、凄く大事。

単純な女なので、結末の予想が全然つかなかった。

こんなにもわくわくした小説の締め方をどうするのかと思ったけど、心配する必要は何もなかった。

読了後二日たった今この時でも、古市さんの作りだした世界の余韻に浸っている。

ねぇ、平成くん。最高だよ。

本日、おしまい。

平成くん、さようなら

平成くん、さようなら

  • 作者:古市 憲寿
  • 出版社:文藝春秋
  • 発売日: 2018年11月09日